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大学の教員か研究機関の研究員か
前回の不定期コラムの書評において「最終地点が教授だとしても助教から上り詰めるのは避け(中略)それよりも公的・民間研究機関の研究員になる方が良い」ということが書かれていたということを紹介しました。それでは、博士課程修了者(満期退学者含む)の方々は、どのくらい大学教員になり、どのくらい研究機関の研究員になっているのでしょうか。博士世界第5号でもこの点をまとめていなかったので、最新の2017年度のデータ(つまり、2016年度の博士課程修了者)を用いて分野別に見ていきます。
学校基本調査の博士課程修了者の職業別進路のデータでは「大学教員」「研究者」という項目があるのでそれを利用することにします。ところで、日本標準職業分類(総務省)による「研究者」の定義は以下のようになっています。
公的研究機関、大学附置研究所又は企業の研究所・試験所・研究室などの試験・研究施設において、自然科学、人文・社会科学の分野の基礎的又は応用的な学問上・技術上の問題を解明するため、新たな理論・学説の発見又は技術上の革新を目標とする専門的・科学的な仕事に従事するものをいう。
つまり、研究機関に限らず、企業の研究部門に就職した人も「研究者」に入ります(「技術者」とは区別されています)。そのため、「公的・民間研究機関の研究員」への就職者数はわかりません。そこで、産業別(注)の進路データを見てみると、「学術・研究開発機関」という欄があります。ここには、「学術・研究開発機関」に就職した事務従事者も含まれてしまいますが、多くの方は研究者として就職したと考えることにします。
これらの前提で整理した2016年度博士課程修了者の進路が以下の表とグラフです。
表1 2016年度博士課程修了者の進路(分野別)(2017年度 文部科学省「学校基本調査」より筆者作成)
※1 卒業者のうちポスドク(再掲):ポスドクは統計上,雇用形態により「正規の職員等ではない者」「一時的な仕事に就いた者」「上記以外の者」(それぞれの違いは下に出てくる表2を参照してください)のそれぞれに含まれています。これらの区分からポスドクの人数だけ抽出したのが「卒業者のうちポスドク(再掲)」です。
※2 卒業者のうち満期退学者(再掲):満期退学者は統計上,博士号取得者を区分されずに上記のそれぞれの進路に計上されています。これらの区分から満期退学者の人数だけ抽出したのが「卒業者のうち満期退学者(再掲)」です。
図 2016年度博士課程修了者の進路(分野別)※[ ]内は人数
(2017年度 文部科学省「学校基本調査」より筆者作成)
全体的には大学教員と研究者は同じ割合だが分野によって傾向が異なる
全体で見ると博士課程修了者のうち、研究者になったのは15.9%、大学教員になったのは14.6%と同じくらいです。しかし、分野別に見ると大きく様相が異なります。人文科学・社会科学・保健・家政・教育では大学教員になった割合が研究者になった割合よりも高く、理学・工学・農学ではその反対です。理学分野では修了者のわずか5%が大学教員になった一方、教育分野では30%強が大学教員になっています。反対に見ると、理学分野では修了者の30%弱が研究者になっているのに対し、教育分野ではわずか7%にとどまっています。
このことからは研究活動を業として行える場が,理学・工学・農学では大学以外の研究機関や企業にもあるのに対し,人文科学・社会科学・保健・家政・教育では研究活動を業にできる場所が相対的に大学に限られていることがわかります(理学と人文科学の就職先の変化については博士世界第5号をご覧ください)。あるいは,理学・工学・農学の分野ではそもそも博士課程を修了していきなり大学教員になるのは難しいということも理由として考えられます(学校基本調査では卒業した時点での就職先しかわかりません)。
また,学術・研究機関への就職者数と研究者として就職した人数を比較すると,全体的には約4割の研究者が学術・研究機関に所属していることがわかります。残りの6割は企業の研究部門にいると考えられますが,ポスドクを研究者に含めて回答した大学がある可能性もあります。
その他の就職先について
技術者は理学・工学,保健医療従事者は保健や家政から就職する職業となっています。家政から保健医療従事者が多いのは,保健医療従事者に栄養士が含まれるためです。
また,分野によって就職率が大きく異なることがわかります。図で見ていただくと左からその他の就職者までが就職者であり,この部分の者は進学者または1年以上の雇用契約が結ばれています(表2)。
表2 学校基本調査における就職の分類
(文部科学省 「平成30年度 学校基本調査の手引き」より筆者作成)
※色を塗った部分が表1における「就職者」。2012(平成24)年度から上記の区分を使用。
人文科学と芸術の就職者率は30%台です。次に就職率が低いのは50%台の社会科学と教育です。これらの分野とその他の分野の違いは,上記でも触れた技術者や保健医療従事者への就職の有無です。つまり,専門性を活かした実務につける分野では就職率が相対的に高く,そうではない分野は就職率が相対的に低いことになります。
結果的に人文科学と芸術では一時的な仕事に就いた者の割合が高くなっています。非常勤講師の掛け持ちや短時間勤務の特定有期雇用である学術支援専門職員などをしていることが考えられます。
なお,死亡・不詳の者も分野ごとに差がありますが,博士世界第5号でも触れたとおり,ここは文字通り不詳,つまり,「大学側が把握できていない」と考えるべきであり,「行方不明」と考えないようにしましょう。そうは言うものの,学生の進路がどうなったかは在学生にとってもこれから入る学生にとっても,あるいは国民一般にとっても重要事項であり,大学側がさらに把握するように努め,ここの割合を減らしていく必要があると思います。
(注)
広義の職業には以下の3つの要素があります。
① 産業(その人が所属している企業や団体の主な事業)
② 職業(その人が所属している企業や団体におけるその人の職務内容)
③ 従業上の地位(その人が所属している企業や団体におけるその人の職位)
これに従って考えると、大学教授は「(産業)教育、(職業)教員、(従業上の地位)教授」といったように整理できます。今回のコラムでは従業上の地位は考えていません。
(参考資料)
文部科学省「学校基本調査」(平成29年度)
文部科学省「平成30年度 学校基本調査の手引き」
総務省『説明及び内容例示』「日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定)」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000291936.pdf(2018年12月25日閲覧)
総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)」
http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/H25index.htm(2018年12月25日閲覧)
(執筆:マスター)
高校を飛び級で卒業し,コロンビア大学を最優秀の成績で卒業した物理学者である著者による(米国における)実践的な研究者としてのサバイバルガイドです。輝かしい経歴を持ちながらもポスドクから就職する際に苦労した(都市計画のアドバイザーの仕事に応募するくらい)ことを踏まえ,その後の研究者人生での経験を元に書かれています。なお,理系研究者とありますがそれ以外の方にも共通して活用できる部分はあると思います。
日米で事情が異なる点も多々あると思いますが,本書を貫くメッセージは,若手のうちは「生き残る」ために,就職活動であることを意識して研究活動を進めることが重要ということだと思います。博士世界の読者の皆様にも有益な情報はたくさんあります。例えば,
【研究室選び】
院生が研究テーマの全体を把握できているか確認する(私は社会科学系の人間なのでよくわかりませんが,自然科学系だと大きなテーマがあってそれを学生が分業しながら進めていますよね)
【研究の進め方】
【ポスドクから先】
詳細な理由については本書をお読みください。とにかくアウトプットを自分の将来のために活かす姿勢が重要ということですが,よくよく考えると実はどのような職業でも共通のことだと感じます。また,就職先について大学ではなく,まずは研究機関に行くべしという指摘には膝を打ちました(※)。
社会科学系で言えば,公的研究機関にはデータの宝の山が眠っていることが多々有り,一般的な分析ができれば素晴らしい研究成果になることがあります。逆に言えば,こうしたデータにたどり着けないとデータの時点で負けてしまっているわけです(所詮,分析は道具にすぎません)。そのようなデータにアクセスできるのは必ずしもその研究者の実力ではありませんが,分析結果はその業界における素晴らしい論文になるはずです。そう考えると,公的研究機関への就職は,理系に限らず,頭の片隅に置いておくといいなと思いました(博士学生の就職先は第5号をごらんください。また,最新版の博士学生の就職先のデータに関するコラムはこの次に書きます!)。
最後に,本筋ではありませんが,論文の主語に関する話は驚きました(p.90)。著者曰く「はるか古代」(約30年前のことだそう)の論文では,主語は無生物主語あるいは「We」とするが,今は「I」と書いても良いそうです。この主語は「We」と書けという教えは私も受けたことがあるのですが,意味不明だと思っていたところです。明日からは自信をもって「I」と書くようにします(もちろん,共同で調査したときは「We」と書きますが……)。
平易な文章でさらっと数時間で読めてしまいます。少し,自分自身の来し方行く末を考える時間ができたときに読んでみると良いと思います。それでは,また,次回のコラムで!
(※)執筆者個人の感想であり,博士世界編集部全体としての見解ではありません。
(参考URL)標記の本の出版社による紹介ページ
http://www.hakuyo-sha.co.jp/science/%E5%8D%9A%E5%A3%AB%E5%8F%B7%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%A7%E3%81%AF%E4%B8%8D%E5%8D%81%E5%88%86%EF%BC%81/
(執筆:マスター)
末広アパート2号記者が大学教員についての統計をまとめました。
以下では各号に掲載できなかった「数字で見る博士課程」のグラフ・図を紹介します。あわせて没ネタもどうぞ!
本紙中で省略した1980年以前のデータです。なお,データは「年」であり「年度」ではないのでご注意ください。例えば,2016年とは2016年3月の卒業生ということですから,2015年度に卒業した人ということになります。